テレビでのレース実況のむずかしさ

2015年01月25日



これはあくまでも持論なのですが、球技や格闘技とレースは競技形態が全く違います。マッチとレースの違い、これがすべてです。それだけにレース実況は特殊といえます。

ほぼすべての球技と格闘技は団体戦であろうと個人戦であろうと”マッチ”形式でA対Bという二極体制の構図です。しかも、球技に関してはフィールド内にはボールはたった一つで、そのボールを中心にすべてが展開してゆきます。それぞれの競技ではルールも選手人数もゲーム展開も違うので、実況するにはそれぞれのむずかしさとテクニックの違いは存在します。

それに対して、レースはトップ争いだけ追えばいいと言うものではありません。モータースポーツに関して言えば競馬や陸上競技、アイススケートと違って競技は2時間から3時間と長時間です。しかもインディカーでは2回から8回のピットストップがあって、タイヤ交換や燃料補給、アジャストの有無だけではなくソフトとハードのどちらのタイヤをどう消化したかなどの情報を押さえておかないとレース展開を正確に追うことができません。これができないと視聴者には混乱を与えます。

特にインディカーではピットタイミングや燃費、使用タイヤの関係で見た目のトップ争いとは違うところで本当の優勝争いが行われているケースもあって、それが把握できていないと視聴者に正しくレースが伝わりません。

私が一番気にしている部分は如何に視聴者の皆さんに正しくレース展開を伝えるかです。我々がレース展開の一歩先(球技に置き換えれば15分くらい先)を読んで起こりうる展開を理解しておかないと”正確でわかりやすい実況”は不可能です。ここは球技の実況とレースの実況の大きく違うところです。

球技では中継画面にはほぼ必ずボールが映っています。プレイ中にボールのないところを延々と実況する必要はありませんし、ボールのないところが中継画面に延々と映るようなこともありません。

でも、もしサッカーが1つのフィールドに5つのボールがあって、それぞれのボールで選手がばらばらにに動き始めたら実況するのは大変になるでしょう。格闘技でもリングに10人の選手が上がってそれぞれが戦い始めたら実況するのは大変になるでしょう。でもレース実況はそんな状況を2時間も実況し続けるのに近いですね。もしくはテニスの試合を5試合同時に実況するのに近いでしょう。

陸上競技でもマラソンや駅伝は多くのアスリートが2時間以上レースを続けますが、アナウンサーは複数いて第2中継車、第3中継車と走行集団ごとに手分けして実況が行われるのが普通です。

我々のレース中継は一方的に送られてくる中継映像とネットでの順位表、あとは現地放送の英語実況が情報のすべてです。少なくとも中継映像に映っていない部分は我々には見えていません。

そんな厳しい状況を少しでも打破しようと、コメンタリーは3人体制で臨み、そのコメンタリーには現役アスリート(現役レースドライバー)でメーカーとも契約しているファクトリードライバーまで擁しています。現役アスリートをコメンタリーに起用するケースはほかのスポーツ中継ではあまり見られないケースだと思います。

さらに状況把握のために私のほかにデータ係がスタジオで常に順位や展開などを整理し、常に私とインカムでやり取りしながらラストピットでのアジャスト有無や作戦面、ピットアウト直後の順位、チャンピオン争いのポイント計算などを確認し合っています。

2008年までの5シーズン、坂東親分の解説でスーパー耐久シリーズの中継番組をGAORAでやってきましたが、独自に中継車を出してコメンタリーに合わせてスイッチングができたり、自由に走らせることができるピットリポーターもいたので、出走台数、参戦クラスが多いのにもかかわらず割とスムーズに実況することができました。

やはり、”オフチューブ”(現地実況ではない)のレース実況はかなり特殊な環境にあると言えるでしょう。